特別養子縁組の離縁・実親の同意と撤回:法律が定めるルールと現実
特別養子縁組に関して最も誤解が多いトピックの一つが「実親の同意」だ。「同意すれば縁組できる」というわけでもなく、「一度同意したら撤回できない」でもない。法律は複雑な現実を反映して設計されている。
実親の同意:何が必要で、何が不要か
特別養子縁組が成立するためには、原則として実父母の同意が必要だ(民法第817条の6)。
「両親ともに同意が必要」とは、子どもを産んだ母親(実母)と、戸籍上の父親(実父)の双方の同意を意味する。実父が不明・未認知の場合は実母のみの同意で手続きが進む。
同意の方式
同意は口頭ではなく、書面で行われる(いわゆる「同意書」)。ただし法律は書面の形式を細かく定めておらず、実務的には家庭裁判所に出席して同意を表明する方法が確実とされている。
同意が不要なケース
民法第817条の6はただし書きで、次の場合は実親の同意なしに縁組の審判を行えると定めている。
- 実親が意思を表示できない(意識不明、失踪など)
- 実親が虐待・悪意の遺棄など子どもを著しく害する行為をしている
この「同意不要」の判断は家庭裁判所が行う。行政が一方的に決定するのではなく、司法の判断が入ることが子どもの権利保護の観点から重要だ。
2020年改正後の「同意撤回制限」
改正前の制度では、実親が審判確定まで同意を撤回できた。これが縁組直前の破断を招くケースがあり、養親候補者の心理的な負担となっていた。
2020年改正後のルール
改正民法第817条の6の2は、家庭裁判所の期日等において実父母が同意を表明し、そこから2週間が経過した後は、同意を撤回できないと定めた。
つまり:
- 家裁の期日で同意を表明する
- 2週間の熟慮期間が経過する
- 以降は撤回不可
この2週間は「産後の混乱が収まる時間」として機能する。生まれたばかりの赤ちゃんを手放すことへの後悔・葛藤が最も激しい時期に撤回を防ぐのではなく、一定の熟慮期間を設けた上で決定を確定させる設計だ。
「2週間以内」の撤回は可能
同意表明から2週間以内であれば、実親は同意を撤回できる。この期間の撤回は法的に有効だ。養親候補者にとっては不安な2週間だが、実親の意思の真正性を担保するための必要な期間でもある。
同意書(同意の書面化)の実務
実務上、機関によって同意取得の手順は異なる。
多くの民間あっせん機関では、実母が出産後に意識が落ち着いた段階(産後数日〜数週間)でカウンセリングを行い、養子縁組を選ぶかどうかを改めて確認する。「養子縁組する」という意思が明確になってから初めて、家庭裁判所での正式な同意表明のプロセスに進む。
机の上で一枚の同意書にサインを求めるような方法は、適切なカウンセリングなしに行われると問題になる。「合意」の形式よりも「真意」の確認が重要だ。
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特別養子縁組の離縁:原則として不可
縁組成立後の離縁については、別の記事でも詳しく触れているが、特別養子縁組の離縁は民法第817条の10によって原則として認められていない。
例外的に離縁が認められるのは、次の両方の要件を満たす場合に限られる。
- 養親による虐待・悪意の遺棄その他子どもの利益を著しく害する事由がある
- 実親が相当の監護をする能力がある
離縁が成立した場合、実親との法的関係が「復活」する。しかし、長年養育されてきた環境からの引き離しは子どもに深刻な影響を与える可能性が高く、家庭裁判所は離縁に対して極めて慎重な判断を行う。
実親にとっての同意という決断
養子縁組の議論は養親候補者の視点で語られがちだが、実親の側の苦悩も理解しておくことは重要だ。
予期せぬ妊娠・経済的困窮・精神的困難を抱える実母の多くは、「育てられないなら産まなければよかった」という周囲の眼差しを恐れながら、子どもの将来を考えて縁組を選ぶ。民間機関のカウンセラーは、縁組だけでなく「自分で育てる道」も含めたあらゆる選択肢を提示した上で、実母が自ら決断できるよう支援する。
実親の同意がなぜ2週間後まで撤回できるのか、なぜカウンセリングが重要なのかは、この背景を知ることで理解できる。
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よくある質問
Q. 実父不明の場合、縁組は進められますか?
実父が未認知(戸籍に父親の記載がない)場合、実母のみの同意で手続きを進めることができる。ただし実父が後から認知した場合の問題を避けるため、機関によっては慎重に状況を確認する。
Q. 実親が同意後に心変わりして子どもを取り戻したいと言った場合、2週間以内なら可能ですか?
2020年改正法の規定では、家裁期日での同意表明から2週間以内であれば撤回可能だ。ただし、機関を通じた委託がすでに行われ、子どもが養親候補者の家庭で生活している場合、引き離しが子どもに与える影響を考慮した判断が家裁で行われる。
Q. 実親の同意が得られないと知った場合、あっせん機関はどう対応しますか?
実親が縁組に同意していない場合、民間機関は縁組を進めることができない。同意なしで縁組が可能な「虐待・遺棄」等のケースは、行政(児童相談所)が主導する形で手続きが進む。民間機関が「同意なし縁組」を主導することはない。
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